島田雄貴リーガルオフィスが、被害者が1人でも死刑判決が出たケースについて、レポートします。
アーカンソーの殺人事件
1981年1月の「寒い夜だった」と、今はアメリカのアーカンソー州ベントン郡警察本部長になっているドン・タウンゼンドはいいます。「本部から管轄区域の住宅地で強盗殺人事件が起きたと伝えてきました。被害者はごく普通の会社員、ドン・レーマン。通報してきたのは被害者の娘のビッキーで、かなり興奮しているという話だった」
壮絶な現場
現場は庭の芝生がきれいな典型的な郊外住宅の一つで、駆けつけたとき、レーマン氏は寝室の床にうつ伏せになってすでに死んでいました。後頭部に銃弾の射入口が見え、反対側の額は大きく割れて脳漿と血が溢れ出していました。
何本ものみみず腫れ
半裸の背中には何本ものみみず腫れが走り、そこから噴き出した血が半ば固まっていました。
犯人は4人
放心状態のビッキーと被害者の妻バージニアの二人からやっと聞き出した証言で、地元の白人不良グループが浮かびました。犯行に加わったのは四人で、一人が見張りに立ち、残る三人が寝入ったばかりのレーマン夫婦の寝室に押し入りました。「彼らはベッドから夫を引きずり出しチェーンで何度も打ち据えました」。オートバイの駆動用の太いチェーンで、打たれたあとは見る間に膨れ上がり、血が噴き出したといいます。
引き出しに護身用のけん銃
夫は打ちのめされながらも懸命にベッドわきのテーブルに駆け寄りました。引き出しに護身用のけん銃がしまってあったからです。
犯人の逆上
しかし、男たちの方が素早かったのです。夫を引き倒し、引き出しから銃を見つけると、すっかり逆上してチェーンでさらにひどく打ち据え、「血まみれの夫に床に正座するように命じました」。
命乞いを繰り返すも
それが“処刑”の宣告であるのを知って夫は命乞いを繰り返しましたが、彼らはその様子を面白がるようにいたぶり続け、「そしてひざまずかせた夫の後頭部に銃を押し当てて引き金を引きました」。
惨劇のあと、男たちはベッドの上で震える夫人をそのままに逃げ去っていきました。
銃声で怖くなって逃げた
「銃声でわれに返り怖くなって逃げた、という印象だった」とタウンゼンド本部長は語っています。
電気椅子による死刑判決
4人とも有罪
四人はまもなく州警察に捕まり、同じ1981年10月、殺人罪で四人全員に有罪評決が出て、電気椅子による死刑判決が下されました。
一人を殺した罪で複数の者が死刑
一人を殺した罪で複数の者が死刑判決を受けるのは米国ではそう異例ではありませんでした。
第一級殺人
謀殺または並外れた残虐な殺害方法
ただ死刑を規定する第一級殺人は謀殺、つまり計画的に殺害を実行したか、あるいは並外れた残虐な殺害方法で行われたことを求めています。
故殺
この事件は、「被害者が銃を取ろうとしたために」、かっとなってやった「故殺」に近いものでした。
弁護団の主張
実際、四人組も法廷で「殺すつもりはなかった」と繰り返し陳述し、それは犯行の目撃者の夫人を「消す」のも忘れて逃げたことで十分証明されると、弁護団は主張しました。
検察側「は許されざる残虐行為」と主張
しかし、検察側は「被害者をひざまずかせて殺す」、いわゆる処刑スタイルが「殺害を楽しむ許されざる残虐行為」と糾弾し、陪審員もそれを受け入れました。
「問題なのは被害者の数ではなく、被害者にどれほどの死の苦痛を味わわせたかにある」とタウンゼンド本部長は解説します。
処刑スタイル殺人はどの州でも死刑
ちなみに今の米国では被害者をひざまずかせる処刑スタイル殺人はどの州でも死刑を適用しています。
州最高裁は死刑判決を支持
1人だけ無期に減刑
1983年5月、州最高裁は上告した四人のうち見張りに立った一人を無期懲役に減刑、残る三人の上告を却下する判決を下しました。
ビル・クリントン州知事
三人の死刑執行命令書にサイン
これを受けてビル・クリントン州知事(当時)は、三人の死刑執行命令書にサインしました。
1994年、薬物注射で処刑
三人は連邦政府への助命嘆願がすべて棄却された1994年8月3日夜、アーカンソー州カミンズの施設で薬物注射で処刑されました。
最後の食事
その三時間前の最後の食事にH・クラインズ(37)は二ポンドのエビフライ、ポテトフライ、それにバナナプディングを注文しました。
W・ホームズ(37)は八オンスのソーセージ、ダブルチーズバーガー、フレンチフライにコカ・コーラを、D・リッチリー(四〇)はレアのステーキと、野菜サラダ、ルートビアを頼みました。
州矯正局の記録
食後、三人はたばこと鎮静剤をリクエストし認められた、と州矯正局の記録にはあります。
JT女性社員逆恨み殺人事件で地裁は無期判決
JT女性社員が暴行被害を警察に通報し、おかげで七年も臭い飯を食ったと逆恨みした男(船橋市の土木作業員・持田孝)が出所後、彼女をしつこく付け回して殺害した事件で東京地裁は1999年5月、無期の判決を下しました。(JT女性社員逆恨み殺人事件)。。
東京高裁で逆転
その後、東京高裁が死刑判決を下し、最高裁もこれを支持。死刑が確定し、鳩山法相が執行を命じました。日本では無期でも十年で出てこれます。
国立市主婦殺害で温情判決
国立市の主婦を暴行し絞め殺しながら、もう一度、現場に戻って念入りに首を包丁で切った男も無期の温情判決を受けました。
計画的で執拗、残忍で極刑相当
いずれも計画的で執拗、残忍で極刑相当と判決では言いながら、「でも、日本では二人以上殺さないと死刑にしないと最高裁が決めたから」と結びます。
被告の人権を訴える弁護士
被告の人権を訴える弁護士はいっぱいいます。「被告は十分反省している」と的外れな思いやりを口にする判事も山ほどいます。
被害者の味わった「殺されていく苦痛」
しかし、被害者の味わった「殺されていく苦痛」への思いはどこを探しても見受けられません。
裁判官が陪審員に言うセリフ
米国の法廷で評決する陪審員に裁判官がいう決まり文句があります。 「これが社会にどう影響するのか、被告人が今、何を考えているのかは考えることではない。この事件で、だれが何をしたのか、それが罰に値するのかどうかのみを考えなさい」